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2009年05月30日(土)

同じ暗闇のなかで。 

バンギャル ア ゴーゴー 上バンギャル ア ゴーゴー 上
(2006/10/14)
雨宮 処凛

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バンギャル ア ゴーゴー 下バンギャル ア ゴーゴー 下
(2006/10/14)
雨宮 処凛

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雨宮さんといえば、非正規雇用問題等に対して盛んに発言するウンドーの人、という側面が今では有名なんじゃないかと思うが、もともとはかなり幅広くいろんな活動をしてこられた方だ。昔はV系バンドのかなりディープな追っかけでもあったことは、生き地獄天国―雨宮処凛自伝 (ちくま文庫)でも書かれている。本書は、そのころの体験を生かした自伝的小説だ。

【More・・・】

舞台は90年代の日本だ。北海道に暮らす主人公「えり」は、中学校でいじめられていたが「ZEX(X)」や「Lunatic Moon(LUNA SEA)」をはじめとするヴィジュアル系バンドの曲に生きる支えを見出し、「追っかけ」の世界に入っていく。バンドを通して出会った友人「ノリコ」と「ユキ」、他の追っかけ仲間やバンドマンたち、家族、そしてクラスメイト。ヴィジュアル系を愛する「バンギャル」がさまざまな出会いと葛藤を繰り返しながら成長していく、青春小説だ。
主人公たちは、多分当時のバンギャル(という語はまだ一般的じゃなかったと思うけど)の中で一番「ありがち」な層ではない。どんなにライブで一体感を味わってもバンドマン達との間には深い深い溝があることに苦しみ、「バカなパンピー」にはなりたくないけど自分に特別なものは何もないとあせり、母親との相克に悩む。そんなどこにでもある思春期を送りながらも、彼女たちはライブの打ち上げにもぐりこみ、「ファック隊」としてバンドマンとセックスし、高校をやめて上京する行動力をもっている。等身大でありながら、多くの趣味を同じくするコたちの頭を1度は掠めながらあきらめられてきた道に、先頭を切って突っ込んでいく。いわば、バンド好きの女のコたちにとっての、一番身近なロールモデルになっていたようなキャラクターなのではないだろうか。
しかし、ほんの少しハジけた彼女もまた、どこにでもあるような挫折と苦悩を味わい続けていることが、一人称の語りで示されている。最後までヒーローにはならず、むしろあたしたちの一番しょうもなくて、なかったことにしてしまいたい顔を共有し続けるのだ。

物語は一進一退を繰り返しながら進んでいく。ある悩みが解決されて爽快な気分になったと思ったら、次のページではまた壁にぶつかってああでもないこうでもないと自問自答する。かつて誰もが経験したことのあるだろう、「フツーになれない、だけどどこにでもいるあたし」の葛藤を媒介にして、読者は「えり」の世界へと連れて行かれる。彼女がぶつかる一つ一つのことに、経験のあることでもないことでも、手に取るように共感してしまうのだ。できれば黒歴史にしておきたい過去を、えぐられる居心地の悪さとともに。
親と顔をあわせれば喧嘩になってしまうこととか。才能のある人や、やりたいことを見つけた人に対して感じる醜い嫉妬とか。バイトもしないで、お小遣いに頼ることへの劣等感とか。それでいて働き出すことは怖い、とか。キャバクラに体験入店して、地蔵のように固まっている様子とか。妊娠検査薬の袋を、開けることさえできないでいる気持ちとか。「あるある」と思いながら読んでいくうちに、「あるあr…うわぁぁぁぁぁ!!」と、頭を壁にぶつけたくなってきてしまう。しまいに、なんで本読むだけでこんなに消耗しなきゃいけないんだ、と腹立たしくなってくる。それでも目が離せない。
本書をバンギャル専用のように思って、自分はそういうのわからないから…と敬遠している人も多いのではないだろうか。もちろん、V系シーン周辺の「空気」を知っている方が、より楽しめるんだろうとは思う。けれど、モチーフとなっているバンドや事件も、上巻のあとがきで羅列されているバンド名も、半分くらいしかわからないあたしにも、十分面白く読むことができた。むしろ普遍的な感情や悩みを入り口にして、ライブハウスに足を運んだことのない人にもバンギャルたちの息遣いを疑似体験させてくれる力を、この作品は持っている。

ふと思う。
ラストの部分で重要なモチーフになっているhideの死が、1998年。LUNA SEAの解散が2000年。あたしがファンをやっているPlastic Treeの結成は1993年で、メジャーデビューが97年。98年には当時人気だったSHAZNAやPierrotといったバンドとともに、武道館に立っていた。
そのころV系シーンには空前のブームが来ていて、たくさんのバンドが次から次へとメジャーデビューしていった。自意識過剰なガキだったあたしは、みんな学校にバーコードのタトゥーシールとかしてきちゃってバカみたい、あんなの聴くもんか!と「ヴィジュアル系」なるものに反発しまくっていた。そのあたしが友だちのカラオケを聴き、あんなに毛嫌いしていた「ヴィジュアル系バンド」だということなど露知らずにParadeを手に取ったのが、おそらく2001年のこと。
著者はあとがきで

少女だった私は、ほとんどすべてのことを暗闇のライヴハウスで学んだ。
友達との付き合い方も、キスも、セックスも、人目を避けるように、逃げるようにして入ったライヴハウスは私にすべて教えてくれた。
ライヴハウスには、いつも私と同じ目をした女の子がいた。何かに飢えて、何かに渇いていて、そして何かに焦ってる目。
(P.460-461)

と記している。彼女が、そして「えり」たちが見ていた景色の中に、ずっと年下のあたしはいない。けれど、あたしの愛するバンドは、確かにそこにいた。Xがいて、LUNA SEAがいた、あのころ。90年代の熱気の中を生き抜いてきたその彼らを、あたしは今、同じ暗闇の中から、見上げているんだ。
オススメ度:★★★★☆

…まあ、そんな時代を経てきて、当時「フロンティア」とか言われてた人たちが10年経って「ネオ・ビジュアル系」になってると思うと、笑えてきちゃうわけですが。時代は永遠に追いついてこないのか。

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タグ : 書評 雨宮処凛 バンギャル・ア・ゴーゴー V系 ヴィジュアル系

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