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2008年12月21日(日)

「正しい知識」だって、問題だよ 

国籍法が改正された。戦ってきた当事者と、彼らを支援してきた方々には「おめでとう」と、そして「ありがとう」と、心から言いたいと思う。今のところあたし自身には直接関係はないのだけれど、立場柄、日本国籍の父と他国籍の母を持ち、いろんな事情からご両親が結婚されていない子どもは、何人か具体的に顔を思い浮かべることができる。今回の法改正が、あのコやあのコが日本で安心して暮らしていくために役立つといいな。
ところで、そこから派生した議論の中に、ちょっと見過ごせないものがあった。

自己責任云々の前に正しい知識を共有するべき - 狐の王国

20日も前のエントリーにいまさら言及するのは、忙しくて今までパソコンに向き合う暇がなかったからというのもあるのだけど、この記事を書いた方とはまったく関係のない深海魚の個人的体験によるところが大きい。何日か前、男友達と遊んでいたときにたまたま、今年頭に沖縄で起こった米兵による少女暴行事件の話題が出たのだ。で、その彼はこうのたまった。

「まあでも、95年に学校帰りの女のコが暴行されて20万人の県民大会が開かれたのに比べたら、成績が良くなさそう…というかちょっと不良っぽい被害者にあんまり同情できないのは、感情的にはしょうがないよね」

しかもよりによって、週刊新潮のあのひっどい記事を擁護する文脈で。被害者は友達と学校見学に行った帰りで、時間も夜というほどでもなかったのを知らなかったからこんな発言になったらしいけど、それにしたってあんまりだ。セカンドレイプがどうとか性差別がどうとかいう前に、目の前にいる金髪ピアスの、神田高校を受験したら確実に見た目で落とされるであろう「成績が良くなさそう」で「ちょっと不良っぽい」、これから夜道を一人で帰らなければならない女(あたしのことだ)に対してそういうことを言うのが何を意味するのか、ちょっとは考えないのかねキミ、と思った。あたしだって忙しいんだから、毎度毎度「夜道を歩いちゃいけないなら、明るくなるまで帰らなければいいじゃない」なんてマリー・アントワネットみたいな解決策を取るわけにはいかないんだからね。

【More・・・】

というわけで、最初に紹介したエントリーに戻る。もちろんそれを書いた人は、ウチの友人のようなバカなことは言わないだろう。けれど、彼のような物言いと、エントリーにみられる認識は、多分、地続きなのだ。というわけで、やっぱりこれに関してはちゃんと書いておかないとなあ、と思った。

根本的には犯罪者が悪いといっても、だからといって犯罪者がうようよしてるようなところにわざわざ飛び込む必要は無いし、正しく用法容量を守ってれば安全なはずの薬を毒薬に変える必要もない。

そういうところで生まれて来たのがいわゆる「常識」ってやつで、「夜中の一人歩きは危険」だとか「男と二人きりにならないようにしとけ」とかそういう類のやつ。

常識に反発を覚えるのは勝手だけど、それで被害にあって「自分は悪くない!」っていうのもどうかと思う。ろくな装備も計画も無しに冬山に登って遭難して「自衛隊がもっと早く来ないのが悪い!」って言われてるような違和感がある。

強姦神話に関しては、とりあえずおいておく。「夜中の一人歩き」とか、「男と二人きり」というのは「冬山」を歩くようなものなのか。だったら、この場合に必要な「装備」とは、スタンガンだろうか、それともダガーナイフだろうか?

たまたま「女」に生まれたというだけで、夜中に好きなところにもいけず、いっしょにいる相手の性別を気にせずに遊ぶこともできないというのは、そもそも不公平で理不尽なことだ。何も悪いことをしていないのに、自由を制限されているのだから。そのために失われる出会いや機会は、決して小さなものではない。
性犯罪被害にあうことを「冬山」での「遭難」にたとえて自衛を訴えかけるとき、性犯罪者は「吹雪」としての役割を与えられている。所与の、責任を問うことのできない「リスク」にされているのだ。暴力を振るう主体が覆い隠された防犯言説を受け取る女性は、自分に向けられたまなざしの中に成り立っている「性暴力にあいやすい性」としての女性像を、自らの身体そのものに内在するものとして内面化してゆく。こうして、子どもは「女のコ」になる。
さらに性暴力の動機となるのが「男性の本能としての性欲」だとみなされていれば、より一層タチの悪いことになる。「ケダモノのよう」な性暴力の加害者と「うかつで挑発的」な被害者とを、加害者でも被害者でもない「普通の人」から一度切り離したうえで、自衛せずに夜道を歩いたり男と二人きりになったりすれば、男性の「本能」を目覚めさせて「狼」に変えても仕方ないんだぞ、と女性を脅しているのだ。被害にあうような女になりたくなければ、「うかつ」なふるまいをするな、というのである。早い話、性暴力を脅迫の道具として、女性を二重基準の性道徳のコントロール下につなぎとめようとしているのだ。「正しい知識」を説いて「自衛」を訴える言説は、「自衛」のみを説いているかぎり、この脅しに手を貸してしまう。意図するとせざるとにかかわらず、だ。

被害者が警戒していたかどうか、あるいは「遊んでる」かどうかに関わらず、レイプというのは加害者が悪意をもって実行しなければ発生しないものです。被害に遭うのは女性が夜に外をフラフラしているからではなく、強姦魔が夜に外をフラフラしているからです。被害者は何も悪くありません。そうはいっても女性たちは、自衛のために夜間の一人歩きを避けざるを得ないのです。もちろん、家にいたら安全なわけではありません。知らない人についていかなければ安全なわけでもありません。それでも少しはマシだろうということで、家にこもることを選ぶのです。しかし、犯罪を発生させないために女性を「危険」な場から閉め出すという考え方では、いつまでもそこは女性にとって安全にはなりません。そして、やむをえずにそこを通行せざるをえない女性がリスクにさらされつづけることになるのです。
男たちの盛り場に女が紛れ込むとレイプが起こるっていうならさ、女に家にいろっていうんじゃなくて男を家に閉じ込めちゃえば?そしたら、家にいる女のところに男が押しかけていって暴行することも防げて一石二鳥だよ。そもそも外を歩いていないから、ついてって被害を受けることもないよ、って言われたら反論できますか。でも、そんなのバカらしいでしょう。まだ起こっていない事件のために行動を制限されたらたまりませんよね。人権侵害ですよね。だったら、女が「危ないから」と行動を制限される事も同じくらい不当なんだってことくらい、わかってください。

今夜の焼きザカナ 「オキナワ」に目覚めたきっかけがCoccoの私に偉そうなことはいえないけれど
(強調は原文)

「現実」そのものを問い直すことなく「現実」に対応した「正しい知識」を持てと強調するとき、性暴力が起きる社会、性暴力の犠牲者が非難される社会を維持・再生産する要素のひとつに、防犯言説もまた、加わってしまっているのである。

もちろん、「自衛」なんかするなと言いたいわけじゃない。被害を受ける可能性が現に存在している以上、「正しくない対策」であっても、サバイバルとしてとらざるを得ないことはある。何でわざわざこんなことをしなきゃならないんだ、と内心ぶつぶついいながらも、あたしだっていろいろ気をつけたり覚悟を決めたりしながら日々を送っているのだ。自衛策を共有することを否定するつもりもない。
けれどそれは、「女」であるというだけで余分な「自衛」をしなければいけない現実が不公正なものである、という認識を前提にしているかぎりでの話だ。「こんな現実は変えなきゃ。けど、そうすぐに変わるもんでもないし、変える前に被害にあってベッコベコにされちゃったら元も子もないから、とりあえず今はあたしたち、強くなりましょ」ということであれば、あたしは「自衛」を肯定する。けど、前提を失ってしまえば話は別だ。「現実とはこういうものです。適応して身を守りなさい。以上」これじゃまったく筋が違う。加害者の責任だけでなく、社会を変えていくべき構成員一人一人の責任まで、被害者に転嫁してしまっているのだ。被害者に、そして潜在的な被害者たる女性に「自己責任」を押し付けることによって、あたしたちは責任逃れをしている。その自覚を欠いた防犯言説を、あたしは信用できない。たとえ、それがどんなに「善意」から発せられたものであろうと。
うかつであろうと、賢明じゃなかろうと、あたしは「こんなのはおかしい」と言いつづけるよ。男性たち、あなたは狼なんかじゃない。あなたは人間だ。

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テーマ : 男女問題 - ジャンル : 政治・経済

タグ : ジェンダー 性暴力 防犯 自己責任

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